ボルトの強度区分の見方|4.6・8.8・10.9の意味と材質・種類を解説

機械設計や組立の現場でボルトを選ぶとき、頭部に打たれた「8.8」や「10.9」といった数字を目にしたことがあるはずです。これは強度区分と呼ばれ、そのボルトがどれだけの引張強さ・降伏点を持つかを表す、いわば「ボルトの体力を示すラベル」です。同じM10のボルトでも、強度区分が違えば締結できる軸力も、許容できる荷重もまったく変わります。本記事では、鋼ボルトの4.6から12.9まで、そしてステンレスボルトのA2-70・A4-70といった区分の意味と読み方を、材質やボルトの種類とあわせて整理します。締付トルクの具体的な決め方は別記事にゆずり、ここでは「区分そのものの読み方」に軸を置いて、新人・若手の設計者が現場で迷わないための基礎を丁寧に解説します。

目次

ボルトの強度区分とは

強度区分とは、ボルトの機械的性質を数値で表した等級のことです。鋼製ボルトについてはJIS B 1051(炭素鋼及び合金鋼製締結用部品の機械的性質—ボルト、ねじ及び植込みボルト)で規定されており、六角ボルトなら頭部の上面に「8.8」「10.9」などと刻印されています。この数字を見れば、そのボルトがどの程度の強さを持つかがひと目で判断でき、図面上でも「強度区分10.9」といった形で指定されます。

ポイントは、強度区分が引張強さ降伏点(耐力)という2つの重要な指標を、ひとつの表記にまとめている点です。引張強さは破断に至るまでに耐えられる最大の応力、降伏点は塑性変形(元に戻らない変形)が始まる応力を指します。ボルトは基本的に降伏点の手前で使うため、この2つの値を知ることが安全な締結設計の出発点になります。刻印が読めれば、材料試験成績書が手元になくてもおおよその強さを把握できるわけです。

なお、強度区分はあくまで「材料の強さ」を表すものであり、ねじの寸法(呼び径やピッチ)とは独立した情報です。同じ8.8でもM6とM20では耐えられる荷重の絶対値は大きく異なります。強度区分で「単位断面あたりの強さ」を、寸法で「断面積」を押さえ、この2つをかけ合わせて初めてそのボルトが受け持てる荷重が決まる、という関係を意識しておくと混乱しにくくなります。また、強度区分の考え方はISO 898-1という国際規格ともほぼ共通で、海外製ボルトでも同じ「8.8」「10.9」の刻印が使われるため、国産・輸入を問わず同じ物差しで強さを比較できるのも実務上のメリットです。

強度区分の数字の読み方

強度区分の数字は、ドット(.)を挟んだ2つの数から成り立っています。前の数字が引張強さ、後ろの数字が引張強さに対する降伏点の割合を表します。具体的には次のように読み取ります。

  • 前の数字 × 100 = 引張強さの目安(N/mm²)
  • 前の数字 × 後ろの数字 × 10 = 降伏点の目安(N/mm²)

たとえば「8.8」の場合、前の数字8から引張強さは約800N/mm²、そして8×8×10=640で降伏点は約640N/mm²と読み取れます。別の言い方をすると、後ろの数字は「引張強さに対して降伏点が何割か」を示しており、8.8なら0.8、つまり引張強さの80%が降伏点、という関係です。10.9であれば引張強さは約1000N/mm²、降伏点はその90%で約900N/mm²となります。

もう一つ、低強度側の例として「4.6」を読んでみましょう。前の数字4から引張強さは約400N/mm²、降伏点は4×6×10=240でおよそ240N/mm²です。後ろの数字が6なので、降伏点は引張強さの60%にとどまります。高強度区分ほど後ろの数字が大きく、降伏点が引張強さに近づく——つまり破断のぎりぎりまで弾性的に粘れる材料になっている、と読み替えることもできます。この規則を覚えておけば、刻印を見るだけで頭の中でおおよその強度を計算でき、換算表を持ち歩かなくても現場でその場で判断できます。

鋼ボルトの強度区分一覧

代表的な鋼ボルトの強度区分を一覧にまとめます。数値はJIS B 1051に基づく目安で、実際の保証値はメーカーの規格やロットにより多少前後します。

強度区分引張強さの目安 (N/mm²)降伏点(耐力)の目安 (N/mm²)主な用途・特徴
4.6約400約240一般構造用の低強度ボルト。軟鋼。汎用的な締結に
5.8約500約400中程度の強度。冷間成形の炭素鋼が中心
6.8約600約480中強度。実際の使用例は比較的少ない
8.8約800約640機械用として最も普及。合金鋼を熱処理
10.9約1000約900高強度。重要保安部品や高軸力締結に
12.9約1200約1080最高強度クラス。キャップボルトに多い

表からわかるように、同じ寸法のボルトでも区分が上がるほど扱える荷重は大きくなります。汎用用途では4.6〜6.8、機械要素では8.8が標準的で、より高い軸力や小型化が求められる箇所で10.9・12.9が選ばれます。

なお、ナットにも強度区分があり、こちらは「4」「8」「10」などボルトの前の数字に対応する一桁で表されます。ボルトとナットは強度区分を合わせて使うのが原則で、たとえば10.9のボルトには区分10以上のナットを組み合わせます。ナット側が弱いとねじ山が先に壊れ(ネジ山のせん断破壊)、ボルト本来の強さを引き出せません。組み合わせを見落とさないよう、部品表の段階で両者の区分をそろえておくと安心です。

ステンレスボルトの区分

ステンレスボルトは鋼ボルトとは別の体系で表され、JIS B 1054に基づき「材質記号+強度区分」の形で示されます。たとえば「A2-70」なら、A2が材質グループ、70が強度レベルを表します。読み方の要点は次のとおりです。

  • A1・A2・A3:オーステナイト系ステンレス(A2はSUS304相当が代表)
  • A4・A5:モリブデンを添加した耐食性の高いオーステナイト系(A4はSUS316相当)
  • 数字(50/70/80):強度レベル。50は軟質(冷間加工なし)、70は冷間加工による強化、80はさらに高強度
区分相当材の例引張強さの目安 (N/mm²)特徴
A2-50SUS304系約500軟質。加工性・成形性を重視
A2-70SUS304系約700最も一般的なステンレスボルト
A4-70SUS316系約700耐食性が高く海水・薬品環境向け
A4-80SUS316系約800高強度かつ高耐食のグレード

ステンレスは強度区分の数字が同じでも鋼の10.9などには及ばず、A2-70でおおよそ鋼の8.8にやや届かない程度の引張強さです。強度そのものより耐食性を優先したい場面で選ばれます。ステンレスの材質そのものの違いはステンレスの種類の記事もあわせて参照してください。

ステンレスボルトの最大の魅力は、強度が中程度でも錆びにくい点にあります。屋外設備、水回り、食品機械、海岸沿いの構造物などでは、鋼ボルトのように防錆処理の劣化を心配せずに使えます。一方で、オーステナイト系は基本的に非磁性で、熱伝導や熱膨張の挙動も鋼とは異なるため、締結対象の材質と合わせて選ぶことが望まれます。また同じ寸法・強度区分なら価格も一般に鋼ボルトより高めになるため、耐食性が本当に必要な箇所を見極めて使い分けるのが実務的です。

材質と強度区分の関係

強度区分と材質は密接に結びついています。4.6や5.8といった低〜中強度の区分は、炭素鋼(軟鋼〜中炭素鋼)をそのまま、または軽い加工で使います。一方、8.8以上の高強度区分は、クロムモリブデン鋼などの合金鋼を焼入れ・焼戻し(調質)した熱処理材が用いられます。熱処理によって内部組織を整え、強さと粘りを両立させているのです。

ただし、強度が高いほど硬くなり、そのぶん「粘り(靭性)」が犠牲になりやすい傾向があります。硬い材料は傷やノッチ(切り欠き)に敏感で、条件によっては遅れ破壊や水素脆性といった問題を起こすこともあります。したがって「とにかく高強度を選べば安心」ではなく、必要な軸力・使用環境に見合った区分を選ぶことが大切です。合金鋼やステンレスなど材料記号そのものの読み方は機械材料の記号の読み方の記事で詳しく扱っています。

もう一点押さえておきたいのが、めっきや表面処理の影響です。高強度ボルトに亜鉛めっきなどを施すと、工程で水素が入り込み遅れ破壊のリスクが高まることがあります。そのため高強度品では、水素を追い出すベーキング処理や、水素の入りにくい表面処理が選ばれます。材質・強度区分・表面処理はバラバラに考えるのではなく、セットで検討するのが実務の基本です。

ボルトの種類

強度区分と並んで、ボルトは頭部の形状によっても分類されます。代表的なものを押さえておきましょう。

  • 六角ボルト:最も一般的。スパナやレンチで締める。汎用締結に広く使われる
  • 六角穴付きボルト(キャップボルト):頭部に六角穴があり六角レンチで締める。座ぐり穴に沈められ、狭い場所や見た目を重視する箇所に。高強度の12.9が多い
  • 六角穴付き止めねじ(イモネジ):頭部を持たず、軸などをねじ先で固定する用途
  • 小ねじ(なべ・皿・トラスなど):比較的小径で、薄板や樹脂部品の締結に。プラスやマイナスの溝を持つ

上記のほかにも、座面にフランジを一体化してワッシャーを省ける「フランジボルト」、片側を部材にねじ込んで使う「植込みボルト(スタッドボルト)」、木材や薄板用の「タッピンねじ」など、多くの種類があります。頭部形状は、使う工具の種類・締結スペース・外観・必要な締付力によって選び分けます。重要なのは、頭部形状と強度区分は独立した属性だという点で、「六角穴付き・12.9」「六角・8.8」のように組み合わせて指定します。図面やカタログでは、この2つを分けて読み取るとスムーズです。

強度区分を設計に活かす

強度区分がわかると、そのボルトで確保できる軸力や許容応力の見積もりに使えます。設計では、ボルトの降伏点に安全率を見込んだ許容応力を設定し、必要な締付軸力から適切な締付トルクを逆算します。強度区分が高いほど大きな軸力を狙えますが、そのぶん締付トルクの管理もシビアになります。

たとえば強度区分8.8のM10ボルト(有効断面積は約58mm²)を、降伏点約640N/mm²の70%まで使うと想定すると、狙える軸力はおよそ640×0.7×58≒2万6千N(約2.6t相当)と概算できます。区分が10.9になれば降伏点は約900N/mm²に上がるので、同じ断面でも狙える軸力は大きく増えます。こうした概算をもとに、必要な本数やボルトサイズを詰めていくのが設計の流れです。

具体的な締付トルクの決め方はボルトの締付トルクの決め方の記事で、摩擦係数やトルク係数とあわせて解説しています。また、実際の軸力や応力を数値で確認したいときはボルト強度計算ツールを使うと、区分ごとの許容荷重をすばやく比較できます。強度区分は設計の「入口」であり、そこから軸力・応力・トルクへとつなげていくのが基本の流れです。

設計の現場で意外と見落とされやすいのが、ボルト自体の強度区分は足りていても、相手側のめねじが抜けないかという視点です。とくにアルミや薄い板にタップを立てて締結する場合、ねじのかかり(有効ねじ山長さ)が足りないと、ボルトが切れる前にめねじ側のねじ山がせん断して抜けてしまいます。相手材がやわらかいほど、ねじ込み深さを深めに確保する(ねじ径の1.5〜2倍程度が一つの目安とされます)か、ヘリサート等のインサートで補強することを検討したいところです。

高強度ボルトの注意点

10.9や12.9、A4-80といった高強度ボルトは、扱いに注意が必要です。代表的な落とし穴を挙げます。

  • 遅れ破壊:締付後、時間が経ってから突然破断する現象。高強度鋼ほど起こりやすい
  • 水素脆性:めっき工程などで侵入した水素が内部にたまり、脆くなる。表面処理の管理が重要
  • かじり(焼き付き):ステンレス同士の締結でねじ山が固着する。潤滑剤の使用が有効
  • 締めすぎ:降伏点を超えて締めるとボルトが伸びきり、かえって必要な軸力を保てなくなる

これらのトラブルは、いずれも「強度が高い=硬い=繊細」という高強度材の性質に根ざしています。高強度だからと油断せず、適切な締付管理と表面処理、潤滑をあわせて行うことが、締結部の信頼性を保つ鍵になります。とくに屋外や振動を受ける箇所では、区分の選定だけでなく施工品質まで含めて考える必要があります。設計段階では、必要以上に高い区分を安易に選ばないこと、選ぶ場合は表面処理と締付方法をセットで指定することが、後工程での不具合を防ぐ近道になります。

ここまで見てきたように、強度区分はボルトを選ぶうえで最初に確認すべき情報です。まず刻印から引張強さと降伏点のおおよそを読み取り、材質・頭部形状・表面処理と組み合わせて用途に合う一本を絞り込む——この順序を身につけておけば、カタログや図面の指定にも迷わず対応できるようになります。

締付作業に役立つ工具

(PR)規定トルクでの締め付けには、校正されたトルクレンチの使用が推奨されます。

使う上での注意(免責)

本記事で示した引張強さや降伏点の数値は、JIS B 1051やJIS B 1054をもとにした目安であり、すべての製品にそのまま当てはまるものではありません。実際の設計・選定にあたっては、必ず最新のJIS規格やメーカーが公表する材料保証値・技術資料を確認してください。強度区分の刻印がないボルトや、来歴の不明なボルトを重要部に転用することは避けるべきです。また、遅れ破壊や疲労などの評価が必要な用途では、専門家や材料メーカーへの相談をおすすめします。本記事は一般的な理解を助けることを目的としており、個別の設計結果を保証するものではありません。

この記事を書いた人

和田 慎(わだ しん)。機械設計歴8年。個人事業主として、主に自動車業界向けの専用機(専用装置)の設計を手がけています。現場で実際に使う計算や図面の知識を、新人の頃につまずいた経験をふまえて、できるだけわかりやすくまとめています。記事の数値や規格は目安であり、実際の設計・加工はJIS規格・メーカー資料・社内基準をご確認ください。

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