普通公差(一般公差)とは|JIS B 0405の等級と公差表の見方を解説

機械図面を見ると、多くの寸法には個別の公差(+−の許容差)が書かれていません。それでも部品は問題なく作られ、検査され、組み立てられていきます。これは、個別に公差を指示しない寸法へ一括で適用される「普通公差(一般公差)」というルールが、図面全体に効いているためです。普通公差はJIS B 0405で規定されており、図面の表題欄付近に「普通公差 JIS B 0405-m」のように記載することで、その等級の許容差がすべての一般寸法へ自動的に適用されます。

この記事では、新人〜若手の設計・製造担当者に向けて、普通公差とは何か、なぜ必要か、JIS B 0405の公差等級(精級f/中級m/粗級c/極粗級v)と代表的な公差表の見方、さらに面取り・角度・幾何公差(JIS B 0419)の一般公差までを実務目線で整理します。はめあい公差や幾何公差といった「個別に指示する公差」とは役割が異なる点を押さえると、図面がぐっと読みやすくなります。

目次

普通公差(一般公差)とは

普通公差とは、図面上で個々に公差を指示していない長さ寸法・角度寸法などに対して、一括で適用される許容差のことです。「一般公差」とも呼ばれ、両者はほぼ同じ意味で使われます。たとえば「50」とだけ書かれた寸法があったとき、その50mmが「厳密に50.000mmでなければならない」わけではありません。図面に「普通公差 JIS B 0405-m(中級)」と指示があれば、呼び寸法30〜120mmの区分に対して±0.3mmが自動的に許容される、という具合です。

ポイントは、普通公差が「図面全体に効くデフォルトの公差」だということです。個別に「50±0.05」や「⌀30 H7」のように指示された寸法は、そちらの個別公差が優先されます。逆に何も書かれていない寸法は、すべて普通公差の等級に従うと解釈します。したがって、図面をどう読むかは「個別指示があるか/ないか」で切り替わることになります。

普通公差が適用される対象は、主に(1)長さ寸法、(2)面取り部分(角の丸み・面取り高さ)、(3)角度寸法の3つです。さらに真直度や直角度などの幾何特性についても、JIS B 0419で一般公差(普通幾何公差)が規定されています。これらを図面に一行記載しておくだけで、無数の一般寸法に対する公差を漏れなく定義できるのが普通公差の大きな利点です。

言い換えれば、普通公差は「わざわざ書かなくても暗黙で守るべき最低限の精度」を全体に敷いておく仕組みです。これがあることで、寸法の記入漏れが即トラブルにつながることを防ぎ、設計・加工・検査の三者が同じ土俵で寸法を解釈できます。図面の読み書きに慣れていない段階では、まず「指示のない寸法にも必ず公差はある」という前提を押さえることが第一歩になります。

なぜ普通公差が必要か

もし図面上のすべての寸法に個別の公差を書こうとすると、図面は数字と記号で埋め尽くされ、かえって読みにくくなります。ブラケットや板金カバーのような部品でも寸法は数十か所に及ぶことがあり、その一つひとつに±値を付記するのは非現実的です。多くの寸法は、機能上そこまで厳密でなくても組み立てや性能に支障がありません。

そこで、機能上重要でない寸法は普通公差で一括管理し、機能上重要な寸法だけを個別に指示する、という考え方が取られます。たとえば軸受が入る穴径や、相手部品と勘合する段付き部などは、はめあい公差や幾何公差で厳しく個別指示します。一方、外形の全長やリブの位置、逃げ加工の寸法などは普通公差に任せます。こうすることで、図面は「どこが重要か」がひと目で分かるメリハリのあるものになります。

また、普通公差は加工現場やコスト管理の面でも重要です。等級を粗く設定すれば加工や検査が容易になりコストは下がり、細かく設定すれば精度は上がるがコストは上がります。図面全体の標準的な精度レベルを一行で宣言できるため、設計者・加工者・検査者の三者が共通の前提で仕事を進められます。

検査の観点でも普通公差は効率化に役立ちます。一般寸法をすべて厳密に測定・記録するのは工数がかかりますが、普通公差で管理される寸法は「明らかに外れていないか」を確認すれば足りることが多く、重点的に測るべき重要寸法へ検査工数を集中できます。設計・製造・検査を通じて負担を最適化する意味でも、普通公差は欠かせない考え方です。

JIS B 0405の公差等級

JIS B 0405では、長さ寸法・角度寸法に対する普通公差を4つの等級で規定しています。記号はf・m・c・vで、右にいくほど許容差が大きく(=ゆるく)なります。図面には「JIS B 0405-m」のように、記号または等級名を添えて指示します。

記号等級許容差の傾向使い分けの目安
f精級(fine)最も小さい精密機械・計測機器など高い精度が求められる部品
m中級(medium)標準的一般的な機械加工部品。最も広く使われる標準等級
c粗級(coarse)大きい溶接構造物・板金・鋳造後の一般部位など
v極粗級(very coarse)最も大きいガス切断品・厚板・精度をあまり要求しない部位

実務では中級mが標準として選ばれることが多く、迷ったらまずmを基準に考えます。溶接構造物や大型の板金部品では、加工のばらつきが大きくなるため粗級cを選ぶことがあります。逆に計測機器や精密部品では精級fを指定します。等級は部品の機能だけでなく、素材や加工方法(機械加工か、溶接・切断か)とも合わせて選ぶのが実務のコツです。

なお、旧図面では「特に指示なき寸法公差は別表による」といった注記や、社内独自の普通公差表を用いている場合もあります。JIS B 0405の等級指示に統一されていない図面を扱うときは、どの表・どの基準が適用されるのかを最初に確認しておくと、解釈違いによる不良を防げます。

長さ寸法の普通公差

長さ寸法(直径・半径・距離・外形など)の普通公差は、呼び寸法の区分ごとに許容差が決まります。寸法が大きくなるほど許容差も大きくなるのが特徴です。下表は各等級の代表的な許容差(単位:mm)の目安です。値は代表的なものであり、正式には最新のJIS B 0405本表と図面指示を必ず確認してください。

呼び寸法の区分(mm)精級f中級m粗級c極粗級v
0.5以上 3以下±0.05±0.1±0.2
3を超え 6以下±0.05±0.1±0.3±0.5
6を超え 30以下±0.1±0.2±0.5±1.0
30を超え 120以下±0.15±0.3±0.8±1.5
120を超え 400以下±0.2±0.5±1.2±2.5
400を超え 1000以下±0.3±0.8±2.0±4.0
1000を超え 2000以下±0.5±1.2±3.0±6.0

たとえば「普通公差 JIS B 0405-m」で寸法「80」と書かれていれば、80は30を超え120以下の区分なので±0.3mm、すなわち79.7〜80.3mmが許容範囲となります。同じ80でも粗級cなら±0.8mm、精級fなら±0.15mmです。図面を読むときは、まず表題欄で等級を確認し、対象寸法がどの区分に入るかを見て許容差を求める、という順序で判断します。

注意したいのは、公差の積み上げ(累積公差)です。普通公差はあくまで単一寸法に対する許容差なので、複数の一般寸法をつないで全体長を決めるような設計では、各寸法の公差が積み重なって想定以上のばらつきになることがあります。重要な位置関係は基準(データム)からの寸法で押さえたり、必要に応じて個別公差にしたりして、累積の影響を意識することが大切です。

また、測定した実寸が普通公差の範囲に収まっているかを判断する際は、測定器の精度や測定時の温度条件も念頭に置きます。特に大きな寸法や精級での管理では、わずかな測定誤差が合否を分けることがあるため、測定方法まで含めて公差を運用する意識が求められます。

面取り部分(角の丸み・面取り高さ)の普通公差

面取り(C面)や角の丸み(R)の高さ寸法には、長さ寸法とは別の普通公差表が用意されています。面取り部は小さな寸法が多く、長さ寸法と同じ表を当てはめると実態に合わないため、専用の区分で規定されているのです。下表は代表値の目安です(単位:mm)。

呼び寸法の区分(mm)精級f・中級m粗級c・極粗級v
0.5以上 3以下±0.2±0.4
3を超え 6以下±0.5±1.0
6を超える±1.0±2.0

たとえば「C2」の面取りを中級で管理する場合、面取り高さ2mmは0.5〜3の区分なので±0.2mm程度が目安になります。面取りや角Rの図面指示そのものの考え方は、別記事の面取り・角R(フィレット)の図面指示で詳しく解説しているので、あわせて参照してください。

角度寸法の普通公差

角度寸法の普通公差は、長さと違って「角度そのもの(度)」ではなく、その角度を構成する短い方の辺の長さで区分が決まる点に注意が必要です。辺が短いほど角度の許容差は大きく、辺が長いほど厳しくなります。これは、同じ角度誤差でも辺が長いほど端部の位置ずれが大きくなるためです。下表は代表値の目安です。

短い辺の長さ(mm)精級f・中級m粗級c極粗級v
10以下±1°±1°30′±3°
10を超え 50以下±30′±1°±2°
50を超え 120以下±20′±30′±1°
120を超え 400以下±10′±15′±30′
400を超える±5′±10′±20′

「′(分)」は1度の60分の1です。たとえば短い辺が30mmの角度を中級で管理すると、区分は10を超え50以下なので±30′(=±0.5°)が目安となります。角度も基本的には長さ寸法と同じく、重要な角度は個別指示、そうでない角度は普通公差に任せる、という運用になります。

幾何公差の普通公差(JIS B 0419)

普通公差は長さ・角度だけでなく、幾何特性にも適用されます。真直度・平面度・直角度・対称度・円周振れなどの幾何公差についても、JIS B 0419で一般公差(普通幾何公差)が規定されており、等級はH級・K級・L級の3段階です(H級が最も厳しい)。図面に「普通幾何公差 JIS B 0419-K」のように記載すると、個別に幾何公差を指示していない形体へ一括で適用されます。

つまり、寸法公差はJIS B 0405、幾何公差はJIS B 0419という二本立てで「デフォルトの公差」が定義されるわけです。幾何公差の基本的な考え方や記号の読み方は、幾何公差の基礎で解説しています。データムや公差記号に不慣れな場合は、先にそちらで全体像をつかんでおくと理解が早くなります。

普通公差の図面での指示

普通公差は、図面の表題欄またはその付近に一括で記載します。代表的な書き方は「普通公差 JIS B 0405-m」「一般公差 JIS B 0405-c」などです。幾何公差の一般公差を併記する場合は「JIS B 0405-m JIS B 0419-K」のように寸法・幾何の両方を示します。この一行で、図面上のすべての一般寸法・一般形体に対する公差が定義されます。

注意したいのは、個別指示が常に優先されるという原則です。表題欄に中級mと書いてあっても、特定の寸法に「50±0.05」と個別指示があれば、その寸法は±0.05mmで管理されます。普通公差はあくまで「指示のない寸法のためのデフォルト」であり、個別指示を上書きするものではありません。図面を読むときも作るときも、この優先順位を取り違えないことが大切です。

普通公差を使うときのポイント

第一に、機能上重要な寸法は必ず個別指示にすることです。相手部品とのはめあい、位置決め、シール面などは普通公差任せにせず、はめあい公差や幾何公差で明確に指示します。はめあい公差の選び方ははめあい公差の使い分けで解説しており、具体的な公差値ははめあい公差検索ツールで確認できます。

第二に、等級は加工方法とコストのバランスで選ぶことです。機械加工中心の部品なら中級m、溶接や切断が主体の構造物なら粗級cというように、実際の作りやすさに見合った等級を選びます。過剰に厳しい等級は加工・検査コストを押し上げるだけで、機能に寄与しないことも少なくありません。

第三に、取引先や加工先との認識合わせを怠らないことです。等級の解釈や適用範囲は、図面のローカルルールや社内規格で微妙に異なることがあります。特に外注する場合は、どのJIS版・どの等級を前提にしているかを事前にすり合わせておくと、検査段階での手戻りを防げます。

参考になる書籍

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使う上での注意(免責)

本記事で示した公差表の数値は、実務での理解を助けるための代表的な目安です。等級の区分や許容差の値は、参照するJISの版によって細部が異なる場合があり、また図面上の個別指示や社内規格が優先されることもあります。実際の設計・加工・検査では、必ず最新のJIS B 0405(長さ・角度寸法の普通公差)およびJIS B 0419(幾何公差の一般公差)の本表と、対象図面の指示内容を確認してください。

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この記事を書いた人

和田 慎(わだ しん)。機械設計歴8年。個人事業主として、主に自動車業界向けの専用機(専用装置)の設計を手がけています。現場で実際に使う計算や図面の知識を、新人の頃につまずいた経験をふまえて、できるだけわかりやすくまとめています。記事の数値や規格は目安であり、実際の設計・加工はJIS規格・メーカー資料・社内基準をご確認ください。

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