機械を組み立てるとき、部品どうしを正確に位置決めしたり、抜け止め・回り止めをしたりする場面で活躍するのが「ピン」です。ボルトやねじほど目立たない機械要素ですが、平行ピン(ノックピン)で位置を出し、スプリングピンで手軽に固定し、割ピンで抜け止めをする——というように、種類ごとに得意分野がはっきり分かれています。適切なピンを選べていないと、位置決め精度が出なかったり、振動で抜けてしまったりと、思わぬトラブルにつながります。本記事では、機械設計・製造でよく使うピンの種類と特徴、はめあいや穴精度との関係、位置決め設計の考え方、材質と強度までを、新人〜若手の実務者向けにまとめて解説します。
機械で使うピンとは
ピンは、丸棒状(または中空・割り状)の小さな部品で、穴に差し込んで使う機械要素です。地味な部品ですが、機械の精度や安全性を大きく左右する重要な役割を担っています。主な用途は、次の5つに整理できます。
- 位置決め:2つの部品の相対位置を正確に決める
- 固定:部品どうしを連結して動かないようにする
- 回り止め:軸やハブが回転してしまうのを防ぐ
- 抜け止め:ボルト・ナットやピンが抜けるのを防ぐ
- 緩み止め:ねじの緩みを機械的に押さえる
ねじが「締結(分解できる固定)」を得意とするのに対し、ピンは「位置を正確に出す」「せん断方向の力を受ける」「簡単・安価に固定する」といった用途で使い分けられます。とくに、ピンにかかる力の多くはせん断(横方向)であり、この点はボルトが受け持つ軸力(引張)とは考え方が異なります。
ピンを使うときは、必ずセットで「穴の加工」を考える必要があります。位置決め用途ではリーマ加工で精度の高い穴を用意し、手軽な固定であればドリル下穴のままでよい場合もあります。つまり、ピンの選定は「どのピンを使うか」だけでなく「どんな穴をあけるか」「どうやって抜くか」までを含めて設計するのがポイントです。どのピンを選ぶかは、求める精度・強度・分解性から逆算して決めていきます。
ピンの主な種類
機械でよく使うピンを、特徴と用途の目安とあわせて一覧にまとめます。まずは全体像をつかんでから、それぞれのピンを詳しく見ていきましょう。呼び方はメーカーや現場によって異なることもありますが、代表的な名称で示しています。
| 種類 | 特徴 | 用途の目安 |
|---|---|---|
| 平行ピン(ダウエルピン・ノックピン) | 円筒形で径が一定。はめあいを管理して精密に位置決めできる | 部品どうしの位置決め、回り止め |
| テーパピン | 軸方向に1/50のテーパ付き。打ち込みで固定でき、抜き差しもできる | 軸とハブの固定、位置決め兼固定 |
| スプリングピン(スリット型・巻き型) | 中空でばね性があり、穴径のばらつきを吸収。打ち込みで固定 | 手軽な固定・回り止め、せん断ピン |
| 割ピン | 二股の足を開いて抜け止めにする。原則として再使用しない | ナット・クレビス・ピンの抜け止め |
| クレビスピン | 頭付きの段付きピン。割ピンなどと併用する | リンク・ヨークの連結(回転を許す) |
| すりわりピン・その他 | 用途に応じた特殊形状のもの | 特定用途の固定・位置決め |
大きく分けると、精度を重視する「位置決め系(平行ピン・テーパピン)」、手軽さと安さを重視する「固定系(スプリングピン)」、抜け止めに徹する「保持系(割ピン・クレビスピン)」の3グループで捉えると整理しやすくなります。次章から代表的なピンを個別に見ていきます。
平行ピン(ノックピン)
平行ピンは、その名のとおり径が一定の円筒ピンで、位置決めの定番として広く使われます。ダウエルピン、ノックピンとも呼ばれます。位置決め精度を出すために、穴はリーマ加工で仕上げ、ピンとの間に適切なはめあいを与えるのが基本です。
一般的には、位置決めする側の穴にピンを圧入(しまりばめ)で打ち込み、相手側の穴はH7程度のすきまばめ〜中間ばめとして着脱できるようにする、という組み合わせがよく用いられます。ピン径の公差はm6やh7などが規格に定められており、穴のH7と組み合わせてはめあいを決めます。はめあいの選び方ははめあい公差の使い分け、圧入の考え方は圧入(しまりばめ)の基礎もあわせて参考にしてください。
平行ピンでは、穴の位置精度がそのまま位置決め精度になります。2つの部品の穴を重ね合わせた状態で共加工(共あけ)すると、位置ずれを抑えやすく、高い精度を確保できます。また、穴が止まり穴(貫通していない穴)の場合は、あとでピンを抜けるように、内側にめねじが切られた「内ねじ付き平行ピン」を使うと、抜き取り工具でスムーズに引き抜けます。ピンの端には打ち込みやすいように面取りが施されているので、面取り側から入れるのが基本です。
テーパピン
テーパピンは、軸方向に1/50のテーパ(こう配)が付いたピンです。テーパリーマで仕上げたテーパ穴に打ち込むと、テーパ面の摩擦でしっかり固定でき、必要なときは小径側から叩き出して抜くことができます。呼び径は細いほうの端(小径側)の直径で表すのが一般的です。
軸とハブ(歯車やレバーなど)の固定によく使われ、位置決めと固定を同時に行える点が大きな特長です。テーパによる楔(くさび)効果でガタが出にくく、繰り返しの分解・組立にも比較的向いています。一方で、専用のテーパリーマによる穴加工が必要で、平行ピンより加工の手間はかかります。貫通させにくい箇所や強い振動でゆるみやすい箇所では、叩き出す代わりにナットやボルトで引き抜ける「めねじ付き(内ねじ付き)テーパピン」「おねじ付きテーパピン」を選ぶなど、条件に応じた選定が必要です。
スプリング(ばね)ピン
スプリングピンは、中空の筒にばね性を持たせて成形したピンで、ロールピンとも呼ばれます。軸方向にスリットを入れた「スリット型」と、板を渦巻き状に巻いた「巻き型(コイル型)」があります。スリット型は構造が単純で安価、巻き型は打ち込み時のばね力が均一で穴を傷めにくい、といった違いがあります。
外径を穴径よりわずかに大きく作っておき、縮めながら打ち込むと、ばねの反発力で穴壁を押し広げるように固定されます。この構造のため、穴径に多少のばらつきがあっても吸収でき、リーマ仕上げをしていないドリル下穴でも使える、専用の締結部品が不要で安価、といった利点があります。手軽な回り止め・抜け止め・せん断ピンとして多用されますが、中空ゆえに中実ピンより強度は劣り、平行ピンほどの位置決め精度も期待できないため、精密な位置出しには向きません。抜くと外径が広がって再使用しにくいため、原則として使い捨てと考えます。
割ピン
割ピンは、一本の線材を二つ折りにして頭部(ループ)と2本の足を作った部品で、抜け止め専用に使います。ボルト・ナットの緩み止めや、クレビスピン・軸の抜け止めとして、貫通穴に通したあと足を左右に開いて固定します。サイズは呼び径(通す穴の径にほぼ相当)で選び、材質は鉄(めっき品)やステンレスが一般的です。
構造が単純で安価ですが、一度開いて曲げた足は金属疲労するため、取り外したら再使用せず新品に交換するのが原則です。ゆるみ止めとしては、みぞ付きナット(キャッスルナット)と組み合わせて使われることが多く、ナットのみぞとボルトの穴を合わせて割ピンを通すことで、確実な抜け止めが得られます。安全に直結する回転部・可動部の連結によく使われ、点検時にはピンの有無と足の開き具合を確認するのが大切です。
位置決めピンの設計
2つの部品を正確に位置決めするときは、ピンを2本使うのが基本です。1本だけでは、そのピンを中心に部品が回ってしまうため、離れた位置に2本目のピンを打つことで「位置」と「向き(回り止め)」の両方を拘束します。ピン間の距離はできるだけ離すほうが、角度方向の位置決め精度が上がります。
ただし、2本とも丸穴のぴったりばめにすると、穴ピッチのわずかな誤差でピンが入らなくなります。そこで、片方を丸穴(基準)、もう片方の穴を長丸(長円)にする、あるいはピン側を小判形に削った「ダイヤピン(菱形ピン)」を使い、ピッチ方向の誤差を逃がすのが定石です。基準ピン側ははめあいをきつめにして位置を決め、ダイヤピン側は回り止めだけを担わせる、という役割分担にすると、加工誤差を吸収しつつ確実に位置決めできます。
実装では、ピンの突き出し量(相手部品にどれだけ入るか)を十分にとること、ピン先の面取りで入りやすくすること、繰り返し着脱する治具では摩耗を見込んで焼入れピンや交換式のブシュを使うことなども重要です。穴の位置公差とはめあいのバランスをどう取るかが、位置決め設計全体のポイントになります。
ピンの材質と強度
ピンの材質は、用途に応じて機械構造用炭素鋼(S45Cなど)、耐食性が必要な場所ではステンレス鋼(SUS303・SUS304など)、強度・耐摩耗が求められる位置決めピンでは焼入れした合金鋼などが使われます。位置決めや繰り返しの着脱がある場合は、表面を硬くして摩耗を抑えた焼入れダウエルピンが有利です。材料記号の読み方は機械材料の記号の読み方を参照してください。
ピンがせん断方向に力を受ける場合は、ピンの断面積とせん断強さから許容荷重を見積もります。単純化すると、せん断で受けられる力はおおよそ「許容せん断応力 × 断面積 × せん断面の数」で考えられ、1面せん断か2面せん断(両側で支持されるか)かで耐えられる荷重が変わります。たとえば同じ荷重でも2面せん断なら1本あたりの負担は半分になります。中空のスプリングピンは中実ピンより断面積が小さいぶん、同じ径でもせん断強度は下がる点に注意が必要です。繰り返し荷重や衝撃がかかる場合は安全率を大きめに見込み、余裕をもった径を選びます。
ピンを使うときの注意点
- 穴の精度:位置決め用途では穴をリーマ仕上げとし、位置公差を管理する。位置精度は穴精度でほぼ決まる。
- はめあい:位置決め側は圧入・きつめ、着脱側はすきまばめ、と役割で使い分ける。
- 抜け止め:振動や繰り返し荷重で抜けないよう、割ピン・止め輪・かしめなどを併用する。
- せん断荷重:力の向き(せん断か引張か)を確認し、断面積とせん断面数で強度を検討する。
- 分解性:将来の分解・保守を考えるなら、テーパピンやクレビスピン+割ピンのように抜ける構造を選ぶ。
- 再使用の可否:割ピンやスプリングピンは原則使い捨て、平行ピンやテーパピンは再使用しやすい、と使い分ける。
適材適所で選ぶことが何より重要です。「精密な位置決めなら平行ピン」「手軽な固定ならスプリングピン」「抜き差ししたいならテーパピン」「抜け止めなら割ピン」というように、目的から逆算して選定すると失敗が少なくなります。迷ったときは、まず「精度が要るのか」「分解するのか」「どんな向きの力を受けるのか」を整理すると、候補が自然に絞り込めます。
ピンの打ち込みと抜き取り
ピンは「入れ方」と「抜き方」まで含めて考えると失敗しません。平行ピンやスプリングピンは、ピンより少し小さい径のポンチ(ピンポンチ)やハンマーで、まっすぐ打ち込みます。斜めに叩くと穴やピンを傷め、位置がずれる原因になるため、面取り側から慎重に入れるのが基本です。圧入する平行ピンでは、圧入代(しめしろ)が大きすぎると穴を広げてしまい、小さすぎると保持力が不足するので、はめあいの管理が欠かせません。
抜き取りを前提とする場合は、貫通穴にして反対側から叩き出せるようにするか、内ねじ付き・おねじ付きのピンを選んで工具で引き抜けるようにします。止まり穴に圧入した平行ピンを無理に抜こうとすると、部品ごと破損させることもあるため、保守性が必要な箇所では最初から抜ける構造を選定しておくことが大切です。テーパピンは必ず小径側から抜く、という向きの管理も忘れないようにします。
コスト面では、規格品の平行ピン・スプリングピン・割ピンはいずれも安価で入手性がよく、特別な理由がなければ市販の規格品から選ぶのが基本です。テーパピンは穴加工にテーパリーマが必要なぶん、加工コストがやや高くなります。量産品では、穴あけ・リーマ・組付けの工数まで含めて、トータルでコストと精度のバランスを見て選定します。
参考になる書籍
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使う上での注意(免責)
本記事で示した寸法・公差・はめあいの記号や強度の考え方は、一般的な目安として解説したものです。実際の設計では、ピンの寸法・公差・機械的性質を、日本産業規格(平行ピンはJIS B 1354、テーパピンはJIS B 1352、割ピンはJIS B 1351、ばね用ピン=スプリングピンはJIS B 2808 など)やメーカーのカタログで、最新の一次情報として必ず確認してください。荷重条件・使用環境・安全率の設定は用途ごとに異なり、本記事の内容の利用によって生じたいかなる損害についても、当サイトは責任を負いかねます。