機械図面には、部品の形状や寸法に加えて「どこを、どの種類の溶接で、どれくらいの大きさでつなぐか」という情報も描き込まれています。その指示を一手に担うのが溶接記号です。溶接記号は小さな図形の組み合わせにすぎませんが、基線・矢・尾という基本要素や、基線の上下・実線と破線の使い分けを知らないと正しく読み取れません。読み違えれば、溶接する面が逆になったり、必要な脚長が確保されなかったりと、強度や品質に直結するミスにつながります。本記事では、新人から若手の設計・製造担当者に向けて、溶接記号の読み方を基礎から順に解説します。JIS Z 3021を土台に、基本記号の一覧、隅肉溶接と開先溶接での寸法の入れ方、全周・現場溶接などの補助記号、そして現場で読み違いを防ぐためのコツまでを整理します。
溶接記号とは
溶接記号とは、図面上で溶接の種類・寸法・位置・仕上げ方法などを、決められた図形と数字の組み合わせで指示するための記号です。日本ではJIS Z 3021「溶接記号」で規定されており、この規格に従って描くことで、設計者の意図を製造・溶接の現場へ正確に伝えられます。
溶接記号を使う最大の利点は、言葉で長々と説明しなくても、少ないスペースで「隅肉溶接を脚長6mmで全周にわたって行う」といった具体的な指示を一目で伝えられる点です。図面は複数の部署や協力会社をまたいで共有されるため、共通のルールに沿った記号で描くことが、認識のずれを防ぐ前提になります。もし記号を使わず言葉だけで指示すると、表現がばらついて解釈の余地が生まれ、溶接する面や大きさの取り違えが起きやすくなります。こうした共通言語があるからこそ、初めて図面を見る作業者でも、設計者と同じ理解にたどり着けます。
なお、溶接記号のルールは国や規格によって細部が異なります。日本ではJIS、欧州ではISO、米国ではAWSといった規格があり、矢の側と反対側の表し方などに違いがあります。海外向けの図面や輸入設備の図面を扱うときは、どの規格に基づく記号かをまず確認しておくと安全です。
一方で、溶接記号はあくまで「どのように溶接するか」の概略を示すものです。実際の溶接条件(電流・パス数・溶接姿勢など)は溶接施工要領書(WPS)などで別途定めるのが一般的で、記号だけですべてが決まるわけではない点は最初に押さえておきましょう。
溶接記号の基本構成
溶接記号は、大きく「説明線」と「基本記号」「補助記号」「寸法・数字」から構成されます。まず土台となるのが説明線で、これは次の3つの要素からできています。
- 基線(きせん):水平に引く直線。この線を基準に、溶接の種類や寸法を書き込みます。溶接記号は必ずこの水平な基線を軸にして読み解きます。
- 矢(や):基線の一端から溶接する部分へ向かって引く斜めの線。矢の先端が指す位置が、溶接する箇所(継手)です。
- 尾(お):基線のもう一端に付ける二股の記号。溶接方法や施工要領書の番号など、補足情報が必要なときだけ書き加えます。不要なら省略します。
基本記号は基線の中央付近に描き、隅肉溶接やV形開先といった溶接の種類を表します。補助記号は全周溶接や現場溶接などの追加条件を、寸法・数字は脚長やのど厚、溶接長さ、ピッチなどを示します。これらが基線の上下の決められた位置に並ぶことで、一つの溶接指示が完成します。逆にいえば、この「どの要素が基線のどこにあるか」を意識すれば、複雑に見える記号も要素ごとに分解して読めるようになります。慣れないうちは、基線・矢・尾・基本記号・寸法・補助記号のどれに当たるかを一つずつ指でなぞりながら確認するとよいでしょう。
矢の側と反対側
溶接記号を読むうえで最初の関門が、「矢の側」と「反対側」の区別です。JISでは基線の下側と上側で、溶接する面を描き分けます。
- 基線の下側に基本記号を描く:矢が指している側(矢の側)を溶接する。
- 基線の上側に基本記号を描く:矢の指す面の反対側(反対側)を溶接する。
「下は手前(矢の側)、上は向こう(反対側)」と覚えると整理しやすいでしょう。両側を溶接する場合は、基線の上と下の両方に基本記号を描きます。この上下の関係を取り違えると、本来溶接すべき面と逆の面を溶接してしまうため、部品の裏表がある形状では特に注意が必要です。
なお、開先溶接など一部の記号では、実線と破線の関係も関わります。基線は通常、実線と破線の2本1組で表現され、実線側が矢の側、破線側が反対側に対応するよう描き分けるのが基本です。記号がどちらの線に接しているかで溶接面が変わるため、上下と合わせて線の種類にも注意します。
基本記号の一覧
代表的な基本記号を下表にまとめます。実際の記号形状は図面やJISの図で確認しつつ、まずは「どんな溶接の種類があり、どの記号が対応するか」をつかんでおきましょう。
| 溶接の種類 | 記号の形(イメージ) | 主な用途・意味 |
|---|---|---|
| 隅肉溶接 | 直角三角形 | 板を重ねる・T字に接合する部分の溶接 |
| I形開先 | 平行な2本線 | 薄板どうしを突き合わせ、開先加工なしで溶接 |
| V形開先 | V字(谷形) | 板を突き合わせ、両縁をV字に加工して溶接 |
| レ形開先 | 片側だけのレ字 | 片方の板だけ開先加工する突合せ溶接 |
| U形開先 | U字(丸底) | 厚板向け。開先断面をU字形に加工 |
| J形開先 | 片側のJ字 | U形を片側だけにした形状の開先 |
| へり溶接 | 平行線(縁) | 板の端(へり)どうしを合わせて溶接 |
| プラグ・スロット溶接 | 四角・穴形 | 穴やスリットを空け、そこを埋めて重ね板を接合 |
| スポット溶接 | 円(点) | 点状に接合する抵抗溶接など |
このほかにも肉盛溶接やシーム溶接などの記号があります。まずは隅肉溶接と各種開先を優先的に覚えると、一般的な鋼構造物の図面はおおむね読めるようになります。開先の形(I・V・レ・U・J)は、板厚や必要な溶込み量、加工のしやすさに応じて使い分けられます。
隅肉溶接の記号の読み方
隅肉溶接は、重ね継手やT継手で最もよく使われる溶接で、実務で目にする頻度が高い記号です。直角三角形の記号とともに、次のような寸法・指示が組み合わされます。
- 脚長(サイズ):三角形の記号の左側に数字で記します。たとえば「6」とあれば脚長6mmの隅肉溶接を意味します。
- 全周溶接:継手の全周にわたって溶接する場合は、基線と矢の交点に小さな丸(○)の補助記号を付けます。
- 断続溶接:一定間隔をあけて溶接する場合は、「溶接長さ‐ピッチ」の形で数字を添えます。たとえば脚長6mm・溶接長さ50mm・ピッチ150mmなら「6 50-150」のように読み取ります。
たとえば「基線の下に三角形、左に6、交点に丸」という記号なら、「矢の側を、脚長6mmの隅肉溶接で全周にわたって溶接する」と読み取れます。このように、記号の位置と数字を一つずつ対応づけていくのが読み方の基本です。
断続溶接には、両側の溶接位置をそろえる「並列断続」と、互い違いにする「千鳥断続」があり、記号の並べ方で区別します。千鳥の場合は基線の上下で溶接部をずらして描くのが特徴です。溶接量を必要な強度に見合う範囲に抑え、ひずみやコストを減らす狙いがあります。長い継手を全周連続で溶接すると熱による変形が大きくなるため、強度が許すなら断続溶接を選ぶ場面も少なくありません。
開先溶接の記号
開先溶接(グルーブ溶接)は、板を突き合わせて縁を加工し、その溝を溶かし込んで接合する溶接です。強度が必要な突合せ部で使われ、記号には次のような寸法が組み合わさります。
- 開先角度:V形やレ形開先で、開先を何度に加工するかを角度で示します。
- ルート間隔:突き合わせる板と板のすき間(ルート間隔)を数字で指示します。
- 開先深さ・のど厚:開先をどの深さまで加工するか、また溶接部の有効な厚み(のど厚)を寸法として記します。
一般に、開先深さは記号の左側に、開先角度やルート間隔は記号の周囲に配置します。完全に溶け込ませる「完全溶込み」か、途中までの「部分溶込み」かによって寸法の入れ方や記号の使い分けが変わるため、寸法が何を指しているのかを一つずつ確認することが大切です。数字の意味を取り違えると、必要な溶込み量が確保できず強度不足を招くおそれがあります。
開先形状の選び方も、記号を理解する助けになります。薄い板どうしなら開先加工の要らないI形、ある程度厚い板の突合せにはV形やレ形、さらに厚い板で溶接量を抑えたい場合はU形やJ形が使われます。図面でどの開先が指示されているかを見れば、その部材にどの程度の板厚・強度が想定されているかを推し量ることもできます。つまり溶接記号は、単なる施工指示であると同時に、その部材に求められる強度や役割を読み解く手がかりにもなります。
補助記号
基本記号に添えて、溶接の範囲や場所、仕上げ方法などの条件を示すのが補助記号です。代表的なものを押さえておきましょう。
- 全周溶接(○):基線と矢の交点に付ける丸印。継手の全周を溶接することを表します。
- 現場溶接(旗):交点に付ける旗のような記号。工場ではなく、据付け現場で溶接することを示します。
- 仕上げ:溶接後の余盛りを削って平らにするなどの仕上げを、記号や文字(G=グラインダ、C=チッピングなど)で指示します。
- 裏波・裏当て:開先溶接の裏側の処理を示す記号で、裏波溶接や裏当て金の使用を表します。
補助記号は数が多く、似た形もあります。とくに現場溶接の旗記号は、見落とすと工場で溶接すべきか現場で溶接すべきかの判断を誤り、工程に影響します。図面で見慣れない記号に出会ったら、思い込みで進めず、JISの一覧や社内標準で意味を確認する習慣をつけましょう。
溶接記号を読むときのコツ
溶接記号は要素が多いため、次の順序で「分解して」読むと迷いにくくなります。
- ① 矢の位置を確認:矢の先端がどの継手・どの面を指しているかを最初に押さえます。
- ② 基線の上下を確認:基本記号が下側か上側かで、矢の側か反対側かを判断します。
- ③ 記号の種類を確認:隅肉か開先か、開先ならどの形かを読み取ります。
- ④ 寸法の並びを確認:脚長・のど厚・溶接長さ・ピッチなどの数字が、それぞれ何を指すかを一つずつ照合します。
- ⑤ 補助記号を確認:全周・現場溶接・仕上げなどの追加条件を最後に確認します。
この5ステップで読めば、複雑な指示も整理できます。加えて、図面の指示と現場の状況が合わない、あるいは記号の意味に迷う場合は、自己判断せず設計者や溶接担当者とすり合わせることが重要です。溶接は後戻りが難しい加工だからこそ、着手前の確認がやり直しや不具合を防ぎます。慣れないうちは、読み取った内容を言葉に書き出して、設計意図と一致しているかを声に出して確認するのも有効です。特に安全にかかわる構造物では、読み取りミスが重大な不具合につながるため、確認を惜しまない姿勢が大切です。
設計者として実感するのは、溶接は記号を正しく描くことと同じくらい、溶接できるスペースを残すことが大切だということです。トーチや溶接棒が入る隙間、のど厚や脚長ぶんの肉、そして溶接ひずみの逃げまで見ておかないと、図面上は成立していても現場で溶接できなかったり、狙った精度が出なかったりします。専用機のように一品ものが多い設計では、この溶接代(しろ)を最初から見込んでおくと手戻りが減ります。
溶接と材料・強度
溶接の良し悪しは、記号どおりに施工することだけでなく、母材の材料特性にも大きく左右されます。材料には溶接しやすいものとそうでないものがあり、記号を読むのと合わせて材料記号にも目を向けると、指示の背景が理解しやすくなります。
たとえば一般構造用圧延鋼材のSS400は溶接性が良く、鋼構造物で広く使われます。一方、炭素量の多い材料や一部の合金鋼、調質材などは、そのまま溶接すると割れが生じやすく、予熱や溶接後熱処理といった配慮が必要になることがあります。材料記号の読み方は機械材料の記号の読み方で、鋼種ごとの特徴は鉄鋼材料の種類と使い分けで解説しているので、あわせて確認してみてください。
また、溶接部の位置や許容差の考え方は、幾何公差の理解とも関わります。位置度や平面度などの指示を読み解く基礎は幾何公差の基礎で扱っています。図面全体を通して読めるようになると、溶接記号の意図もより深く理解できます。
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使う上での注意
本記事は、溶接記号の基本的な読み方を新人・若手向けに整理したものです。実際の運用にあたっては、次の点にご注意ください。
- 規格は改訂されることがあります。記号の正確な形状・意味・寸法の記入方法は、必ず最新のJIS Z 3021などの一次情報で確認してください。
- 本記事の記号説明や寸法の入れ方は概略であり、細部を簡略化しています。実際の図面では、溶接施工要領書や設計・製造部門との協議に基づいて指示・判断してください。
- 記号の解釈に迷う場合や、図面と現場の条件が合わない場合は、自己判断せず設計者・溶接管理技術者に確認してください。溶接品質は安全に直結します。
溶接記号は、慣れるまでは複雑に見えますが、基線・矢・尾の構成と上下・実線破線のルールを押さえれば、確実に読み解けるようになります。まずは身近な図面で、今回の5ステップを実際に当てはめてみてください。読み解いた指示が実物とどう対応するかを繰り返し確認すれば、溶接記号は自然と身についていきます。